アパート保険金詐取事件 その1
保険金詐欺と保険金詐取は意味が異なる。 この物語はフィクションである。
原文として過去に紙に書いていたコラムをコミカルに明るく記載すると興味深い物語になるかもしれないと思い傾向を替えて記載する。
英雄(仮称)は不動産屋を経営していた。 幼少時から裕福な家庭で育った英雄が大学を卒業して親父の後継ぎとして、社長に就任した。
父親の後を継いで2代目のボンボンであった。 父親はバブル景気で土地転がしで大金持ちになった会社であった。 父親は古い〇ルセデス〇ンツに乗り、昭和,平成の時代は金持ちであった名残であった。 ところが、バブル経済崩壊後、事業は斜陽しており、平成の後半、 8人居た従業員は全員解雇して、父も引退し、たった一人で不動産経営をしていた。
でも社会保険料の負担が軽くなり、経営者としては少し楽になっていた。 賃貸物件の紹介手数料では利益が上がらない事を知っていたが、 一人社長であまり仕事が無いからしょうがない。
儲からない仕事でもするしかない。
その不動産仲介業も大手に取られてしまい会社収入が激減した。
毎日が暇な英雄は自宅を売却してそれで生活をしていたが、その金も 底をついてしまった。
ボンボン育ちの英雄は未だに古いが、高価だった外車を所有し、乗り回していたが、住まいは会社の事務所の応接室だったスペースにしていた。
昭和時代に先代の社長である父親が中古取得していた賃貸アパートがあった事を思い出した。 昭和30年新築で築70年で老朽化したその建物は20世帯入居可能であったが、安い家賃にもかかわらず、入居者は2名だけであった。
繁華街から20km程離れて山の山頂に近く車両が横付けできず、変則階段を200段程登ったアパートである。 2名の入居者も高齢者である。
家賃は破格の20,000円/月であるが、非水洗(汲取り式)であり、水道は井戸水で何とか電気は来ていたがケーブルテレビやエアコン等設置してある訳も無く、ガスはプロパンガスであり、新規入居者は期待できない建物であった。
その家賃も滞納されてしまい、全く収入が無い状態が続いていた。
解体しても傾斜地で土地は売れないし、リニューアルしても車両が入れない
階段の傾斜地のアパートは売却も困難であった。 どんどん経年劣化が進み、老朽化した鉄骨外階段が崩れ、2階への通路は事実上なくなった。 そう、1階にいる賃借人2名だけの木造アパートであり、家賃収入は月にして40,000円しかないのに、督促してやっと入金してもらえる高齢者の店子(賃借人)が2人。
これでは改修工事も補修工事もリニューアルも出来ない。 毎年固定資産税が来る。 所謂、厄介な建物である。 見た目は明らかにゴーストアパート、廃墟であり外壁は蔦で覆われており、 一見空家にしか見えない。 そう、ここは九州の長崎である。毎年最低1回は台風が来る。
英雄は火災保険をつけて、老朽化した建物を風災で破損したことにして保険金詐取をしようと考えた。…おバカな発想である。
長崎市で保険に入ると、保険会社が物件調査をして引受不能と答えるであろうと考え、英雄はインターネットで火災保険に加入した。…少し頭を使ったかな? 金が無い中、借金して保険料を負担して加入した。 保険に入って半年が過ぎた。 今年に限って台風の接近が無い。
どうしよう。先々月からの保険料の引き落としが出来ていない。
そうだまず事故報告してネットで去年の台風の接近状況を調べて 保険に加入して1ヶ月後に建物が破損したことにした。 …既に廃墟状態なのに…
知り合いの業者に依頼して保険金額10,000,000円のアパートにもかかわらず見積書の金額が15,000,000円として保険会社に提出した。 …通る訳ないじゃん。
英雄は10,000,000限度だから10,000,000円もらうつもりであった。 …少しは勉強して来いよ。
当然、保険会社は鑑定人、リサーチ会社に依頼して物件を調査した。 …そうなるに決まってます。ネットで調べてから事を起こさなきゃ。
…続く
令和7年10月2日
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