長崎市の歓楽街である銅座,思案橋にはたくさんの居酒屋やクラブ,高級クラブ,バー,スナックが存在する。 その店舗のカウンターの後にバック棚や飾り棚と呼称されるライトアップされた棚に大量のボトルが陳列されている。タグが下げられ、番号や名前が書いてある。封を切ってあるビンである。この所有権は誰にあるのであろうか?もちろん、お金を払った客に所有権がある。わかり易く実例で述べると、不幸にして閉店を余儀なくされたお店のオーナー(スナックのママ等)に言わせると、『お客様のボトルに残ったお酒ですが、取りに来て下さるとお渡しします。』と貼紙がしてあったり、連絡先が書いてある。そうなのである。ボトルの中身はお金を支払った客に所有権が存在する。 では、飲食店の商品に火災保険を付けた場合はこのボトルが火災で焼失した場合、保険金支払いの対象になるのか?との疑問が残る。 業界人には改めて述べる必要は無いが、もちろん、保険の目的外(対象外)である。 店舗総合保険における火災保険の被保険利益は前に述べた被保険利益の要件である①適法であること(法律に違反していなこと)、②経済上の利益であること(金銭に評価できること)、③確定し、または確定しうるもの(被保険利益の種類,価額は保険事故発生までに確定するか、ほとんど確定していることが必要)であり、②の経済上の利益であることが前提である。 ボトルは店が客に対して、売買契約が成立し、客はお店からボトルを購入したのである。重箱の隅をつつくこの業界ではそれでは現金では無く、ツケでボトルを入れた場合はどうなのかとの質問が来るはずである。 それについても、所有権は客にある。経営上、税務署に決算報告書を提出するが、税務上、そのツケは売掛金であり、その売掛金に対して、請求するであろうボトル代や消費税は売上げとして課税される。ちなみにツケを払ってくれず、踏み倒されてしまうと、税務上、貸倒金として処理される。 いずれにしろ、売買されたボトルの所有権は飲客にあり、お店には無い。 それではこの大量に存在するボトルは保険がつけられないの?となる。 付保の方法は『寄託品』という目的の名称で保険を付けることはできる。 現実に火災現場の寄託品の損害を調査鑑定に赴いたが、その処理はすこぶる大変で、原則として、支払い先はそれぞれの客になる。ボトルが100本有れば、100人に支払わなければならない。 それではお店のオーナーが保険料を負担しているにも関わらず、支払い先が客である。現実にその様な処理は難しい。客の連絡先や住所は個人情報であり、その情報は得られない。ボトルが100本有れば、100人から委任状を発行して頂き、お店のオーナーに保険金をお支払するしか無い。この作業は不可能である。 従って、保険契約者に念書を発行して頂き、支払い先を1箇所にし、保険金手続きが肝要であろう。各保険会社の判断となるであろう。 悲しいことに、10,000円のボトルでも中身が満タンでは無いからその目分量により、半分入っているから5,000円の損害であるとか1/10入っているから1,000円であるとか、1本、1本確認をしていかないといけない。口で言うのは簡単であるが、現場の作業は悲しいやら情けないやら、地道な作業である。 当時、保険会社の査定の社員とボトルを見ながら、確認作業をした。現場で明細を作成し、現品との照合をするのである。ボトルの種類も複数であり、お酒の種類がこんなにもあったかなあと驚く。値段もまちまちで値入も大変である。 更に、お店のオーナーがそのボトルは8年以上前の客で、いわゆる流れているからそれはいいよと言われたり、このボトルはビンに煤がついているだけだから、拭き取れば中身に被害は無い等の主張も有り、仕分け作業が必要である。 空のボトルでも客に弁償しなければならない、ビン代だとの提言もあり、困惑してしまう。このボトルはタグがついていないから、寄託品では無く、お店の商品であるとか、商品に保険がついているなら、売価では無く仕入れ原価であるなどと説明をする。現場は大変である。 誤解を恐れずに申し上げれば、寄託品には保険をつけて欲しくないと現場の鑑定人は言うに決まっている様な気がする。
平成23年3月8日
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