時効となった事案の一例である。同業者にとっては既に経験済の類似に事案である事は容易に想像しながら記述する。 13年程前、保険会社の依頼で火災現場の調査鑑定を行なった。 査定担当者と一緒に現場立会し、被保険者と面談調査と現場調査を行なった。火元は和室であったが
①コンセントにプラグが差してない(トラッキング火災では無い)。 ②パソコンがあったが、電源を切ったのでは無く、プラグ自体を外してあった。 ③秋でストーブは出していなかった。 ④昼火事(午前11時40分頃出火)で、家族は全員外出中であった。 ⑤病気で高齢者の祖母すらその日は外出していた。 ⑥全く火の気の無い和室であった。
被保険者に事情聴取を重ねるとあまりに不自然な事実が出てくる。 およそ3時間調査後、査定担当者(ベテランA氏)ともう一度火元和室に行き、被保険者の了解を得て畳を剥がすと、布基礎であった為土壌が見えた。すると灯油の臭いがする。夕方になり、辺りが暗くなり、被保険者に改めて、土壌の油性反応を調査したいと伝え、後日また伺う段取りを説明し、その場を去った。 翌日、小生は法務局に行き、被保険者の所有権と融資関係を知る為、登記簿謄本を入手した。結果はあまりに残酷であった。 借金だらけの被保険者は差押処分を5回受けていた。現在はB金融機関から融資を受け所有権は夫婦2名に変更になり、金銭的に困窮していたことは間違い無かった。 時を同じくして、A氏に他の保険会社から打診が有り、重複契約が判明、いづれも接近クレーム(新規契約で保険契約締結後、2ヶ月後の事故)でだんだんモラルクレームの色彩が濃くなる。 科学的土壌検査の為、掘削作業に赴くこととなり、油性反応調査に 専門家を福岡から同席してもらい、事故から3日後に再立会すると、なんと目的建物はすべて解体され、整地作業が完了していた。 約束が違うとA氏は被保険者を問いただすと、灯油の臭いは認めるが、自分が撒いたのでは無い。誰かが撒いて放火したのではないか?自分は被害者だと言い出す。許可を得たのだから整地された焼け跡を掘らしてもらうよと言うとどうぞとおっしゃるので、掘って泥を採取してバケツにいれた。火元付近の土壌は化学反応の調査をする前に、灯油臭がした。 助燃剤が撒かれたことは被保険者も認めているし、灯油を撒いて放火した事実はほぼ確定したが、誰がやったかである。 『被保険者の故意または重過失』は約款上免責である。 もちろん、被保険者は自分では無いと主張する。ちなみに被保険者の職業はアルバイトで不定期勤務、いわゆるフリーターであり、妻はパートである。 借金を返済するには厳しい状況である。B金融機関の担当者に面談すると抵当権設定してあり、債権保全の為に火災保険契約があると言う。その会社はまだ調査をしていないし、事故報告もこれからだとおっしゃる。 結局、保険会社3社の重複契約であるが、すべてが被保険者有利の事実が見つからない。 小生の調査はここまでで終了し、建物の時価額算定のみの鑑定書提出となった。その後、どう転んだかは個人情報の関係でいまだに知るすべは無い。 ただ、モラルリスクの可能性から担当者はすこぶる激怒していた。 後日、代理店からなぜか小生になぜ保険金を払わないのかと問い合わせがあり、それは保険会社にお尋ね下さいと返す。 小生においては立場上、モラルリスクの疑義は説明しなかったが、未だに気になる事案であった。善良な保険契約者が建物という財産を守る為に保険契約を締結する大切な損害保険であるから、自放火の疑義のある事案は戦うしかないとA氏は言い、裁判所に証人として第3者として出廷依頼があったら協力して下さいと言われ、了承して待機していたが、Thirteen years later. 小生には何も無かった。きっと終了したのであろう。 保険事故の迅速対応のニーズに答え、単独立会が増加する昨今、鑑定人立会時には現場の勘を鋭く使い、初心に帰って調査するべきと考える。 平成27年1月14日
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