非水洗トイレの爆発事故 Based on a true story
それは昭和63年1月に起こった。 小生が担当した和式便所(非水洗,汲み取り式)のプチ爆発事故の事案であった。
被保険者が用を足しながら喫煙し、お尻をちり紙で拭きながら火の着いた煙草を便槽に落としたら、ちり紙に火が着き、燃え上がり、便槽内のガスに引火し、爆発し、被保険者のお尻が火傷を負ったとの事故報告であった。
当時も大都会であった福岡市であるが、福岡市内すべてが水洗トイレでは無かった。 現場についてみると便槽が割れ、何と和式便器は大丈夫で、便槽が糞尿とちり紙で汚損を被っていた。 写真等取りたくないし、臭いし、しかし現場保存されていて、その光景が明確にわかった。 消火活動は無く、爆風でちり紙の火が消えたのか自然鎮火していた。
はっきり言って、事故状況を書きたくないと思いながら、お尻を火傷した被保険者に事情聴取した。
『痔を患っているから、出血もあり、大量のちり紙を使っていたから、便槽のウンチの上には(可燃性の)乾いたちり紙が見えた。 煙草の火をいつもの様に便槽に捨てたところ、火が着いた様な気がした。 まだ便意が残っていて少々踏ん張っていたら、爆発した。その後はあんまり覚えていない。』
…おいおい、こんな事故の経緯書を鑑定書で書けるか!と考えながら、 画板にメモを取り、損害状況を確認し、現場を後にした。 当時、○○海上社に常駐鑑定人として火災新種課に机を置いてもらっていた小生だった為、後日見積書が届き、ドラフトを作成し、担当者と打ち合わせをしていた。
事故状況の特殊さで小生,担当者,主任,課長代理,火災新種課の責任者の課長で計5名が話に参加した。
「延焼していないし、消火活動はしていないから火災扱いでは無く、 担保危険は爆発として処理すべきである。」と課長代理がのたまう。
「うんちしながら、おしっこもしているはずなのに何故引火するのか!」 何にも知らない主任が楽しそうに言う。 「実は俺はうんちとおしっこと同時にできない。」…はっきり言ってどうでもいい発言、明らかにこの事案を面白半分に考えている。
そもそも爆発するのか? 責任者の課長は早〇田大学出身のなんと理系である。「便槽の中にはメタンガスが発生しているから爆発の可能性はある。」 じゃあ、爆発事故で処理しようとすると、慶〇義塾大学出身の担当者が「これは煙草をポイ捨てした被保険者の故意または重過失であり、約款上、免責であり、支払えない」と言い出した。
そう、うんこ事案で早慶戦が始まった。
横にいた素敵な査定ベテランの現地社員の女性が「スーツ着た査定マンがお昼前にうんこうんこと喋らないでよ!何やってんのよ!」 なんと責任者にため口で注意。
すると、女性社員に好感度NO.1の責任者の課長曰く 「じゃあ、もう払っちゃおうか。」その発言がフロアに響いた。 そこはなんと、部長席の隣である。 部長の冷たい視線をすぐ感じた。 上昇志向の高かった課長は部長の顔色を伺いながら、 「きちんと議論しよう」 と言い、真剣にうんこ事故について話し合いをすることとなった。
しかし、なんと手が空いたのか部長まで参加してきた。 課長と課長代理の左手が動き、スーツの第一ボタンを締めた。
当時は損害調査部長は決裁権のある神様であり、部長の主催する ボーリング大会を欠席しようものなら、出世に響く可能性を否定できないほどであった。
現実に西新でボーリング大会に出席した際、その部長が○○君が来てないけどどうなっているのか?とか出席名簿を作り出しペンでチェックしていた。 取引先の鑑定人は来てい居るのか?弁護士の先生の顔が見えないが?
会話をすると気さくな性格の部長であるが、目が笑っていない人で それはそれは怖い部長であった。 人事考課のある恐ろしい人物であった。 もちろん、小生が何か問題を起こしたら、出入り禁止間違いなく、 この業界を去るしかないと思う程厳しい、本当に厳格な部長であった。
部長が書類と見積書と写真を見て曰く 『汚えなあ。うんこまみれじゃん。』
関係者は誰も笑うことができない。代わりに女性が爆笑した。 『わかった。もういい。払ってやって。』 判断も早い部長である。
部長のOKが出たその後、『Yes.pay』で本件の議論は終了した。
平成29年2月2日
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