反則技(いい意味の反則技) Still a man hears what he wants to hear and disregards the rest. (人は自分の聞きたいことだけ聞いて後の話は聞き流す)
平成3年9月27日、りんご台風と呼ばれる猛烈な台風が長崎市に上陸した。今から27年前の台風19号である。日本列島を縦断した。 はっきり言って、あの時、この仕事を辞めておけば良かったの かもしれない。忙しすぎて死にそうだった。
とある保険会社の対策本部に2週間前の台風17号の立会で常駐した。 当時はサラリーマン鑑定人であったから、福岡市から応援鑑定人ということで 数か月のホテル暮らしのつもりだった。立会調査中に19号台風が来た。 2週間の調査がすべて無駄になった。
結果、2年間のホテル暮らしとなった。 その損保での事故受付件数は10,000件であり、鑑定人は3名 (東京から1名,福岡から2名)しかいなかった。 損保の責任者が本店に応援要求を出したが、全国的に被害があり、 断念。 『ハマベさん、鑑定人の一人のノルマが3,000件超になったよ。大丈夫?』 …大丈夫な訳ない。 『年末の12月までに8割終了しないとだめだよ。本店に怒られる』 …無理、無理、と思いながら、毎日、工場物件の立会で1件当たり 平均5,000万円超の風災事故ばかりである。 1ヶ月経っても事故受付けは来てしまい、どんどん保険金の計算をしても、ヘビークレームの立会を1日3件、書面査定40件、体が持つわけない。
残り5,000件の時、同僚の東京の鑑定人がついに倒れる。 ちなみにそのまま退職した。
鑑定人がついに2名体制となる。 親愛なる母から頂いた健康で頑丈な小生はサバイバル鑑定に勝利した。
朝8時から夜12時まで労働しても保険会社の査定セクションには毎日、 契約者と代理店さんからの督促の嵐。 『鑑定人が不足していてもう少し待って下さい』と社員が言う声が聞こえる。 物理的に無理であるが、査定の責任者は早く処理しろと怒る。
営業店の支社長まで客の対応に困ると苦情の日々。 でも、鑑定人は2名しかいない。 ついに保険会社の査定の主任が倒れる。
火災新種担当の女性が病気になる。戦力がどんどん無くなる。
その時である。火災新種査定の責任者が決定した。
『保険金の計算ができたら、被保険者に金額提示の作業を無くして、払ってしまおう。納得できない人は支払い後、言ってくるであろう。 こちらは適正支払い原案をもって払うのだから問題無い。』 すごいご英断であった。 なんと、100件払ってもクレームが来るのは2,3名であり、殆どがスムースに進んだ。 この事がいい悪いは抜きにして、迅速支払で被災地の被保険者に貢献したと思う。 27年前の事実であり、時効であり、それしか方法が無かったと言っても過言では無い。 いい意味での反則技であった。…と思う。
2018年現在、この様なことは許されないかもしれないが、 当時、その責任者は被災地の被災者である被保険者を金銭的に救済し、復興に向けて協力ができた。 …はずだった。
しかし、会社は後日この事を問題にして、責任者は転勤扱いとなった。
送別会に出席して、いろいろ話をしたが、
『じゃあ、他に方法があったのか!鑑定人2人しか送り込まない本店にも 問題があったはずだ。現行戦力で戦えと言い、鑑定人という武器を くれなかった。』とおっしゃった。
19号台風が来る前は穏やかで、聡明で、高学歴で、頭のいい人だなあと 思うくらいの人が毎日、顔を真っ赤にして、怒っている姿を見た2年間で あったが、転勤後、退職なさったと聞き、当時は何とも思わなかったが 指揮官としては最善の策を考え実行した御仁であった。
あまりに厳しく指示をして、こき使う御仁だと恨んでいたが、 27年経つと、そんなに悪い人では無かったと思う様になった。
いい意味の反則技だったのかもしれない。
平成30年4月24日
|