漏水事故で硝子が割れたと主張された事案
小生の記憶の中の引出がたまに開くと奇妙な、不可解な過去の事例が出て来る。 恐らく平成12年くらい、今から18年程前、賠償責任保険で現場立会した 事案である。
給湯器設置業者の配管工事のミスで3階建のRCビルの2階床組みが漏水した。 発見が遅れ、2階のコンクリート床スラブに水が溜まり、2階床組みはすべて冠水していた。
被害者の請求は内装床の全面張替えであり、そこは問題無かったが、 南側の嵌め殺し窓の硝子が割れたとの主張があった。
当方でそこは漏水と無関係と主張した。
被害者曰く『2階室内が水害状態となり、空気中が飽和状態になり、湿度が上がり、ファンヒーターの暖房で温度が上昇し、室内と室外の温度差で硝子が割れた。』
小生発言「もし、そうなら、漏水事故が無くても硝子は割れます。 まして南側であり、日光が硝子に当たりますから、 サッシュ枠と硝子の膨張率の差で硝子が割れることを業界では熱割れと 称してまして、顕著な症状が出てます。」
もちろん、被害者がはい、そうですかなんて言う訳も無く、淡々と ご自分の科学的な知識を説く。
『密閉された空間に湿度が飽和状態で湿度100%に近いと空気が膨張する。そうすると、膨張した空気に硝子が耐え切れず、割れた。』
漏水事故との相当因果関係が中断していると説明するも、人の言うことを聞く耳をお持ちでないお医者様であった。
住宅である以上、完全なる密閉は無い。
建具の開閉で空気は入る。換気扇もしかり。
もし、その理論が正しいなら、漏水事故と関係無く、空気膨張で硝子が割れ飛散する。 現実には硝子は割れてはいるが、クラック(ひび割れ)状態であり、まさに熱割れそのものである。
保険会社にクレームが入り、再立会して、説明に行ったが、この建物の設計をした建築士が出てきて、漏水事故で硝子が割れたと主張する。 困った御仁達であった。
鑑定人として、当該硝子割れ損は直射日光による熱割れによるものであり、漏水事故と関係無いと主張し続けた。
被害者サイドはどなたも『水漏れで硝子が割れた』の一点張りであった。
お医者様である被害者曰く『膨張した空気で酸素濃度が上昇し、湿度が高いからのどにもよく、高酸素で毎日気分はハイ状態であった。』 …おいおい、本当に医者か?と思う発言、笑ってはいけないから我慢する。
一番悲しかったのは事故原因の加害者である設備業者が被害者に賛同して、『保険屋さん、硝子くらい払ってやれ』と小生に言ったことである。
1時間程議論を交わし、最後はなんとか硝子はお断りした。
帰社後、保険会社から弊社に電話があり、『契約者(設備業者)から大クレームがあった。鑑定人は何で硝子をことわったのか詳細なレポートを提出して欲しい。』と指示があり、熱割れの症状や過去の事例を添付して報告した。
今度は契約者の保険を取った代理店さんからもクレームが入り、小生一人が悪者となり、代理店さんのところに赴き、なぜ硝子が払えないか説明に行く様に指示があり、また説明したが、これって俺の仕事かな?と思いながらなんとか解決した。
たまに忘れたい過去の事案の脳の引出が開くと鮮明に思い出せる自分が悲しい。
鑑定人同士で話せば笑い話になることうけあいである。
ちなみにその病院件自宅は現在、更地であり、高酸素で気分がハイになったドクターはどこに行ったのか不明である。
平成30年5月31日
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