運び出された仏壇の損害認定
9年前、長崎市内で火災(類焼)が発生し、現場立会調査を行った。 建物と家財に付保があり、建物は全損に至り、収容家財もほぼ全損になった。
隣家で火災が発生し、すぐ気付いた被保険者がなんと80kg程ある仏壇を家族二人で自宅の外庭に運び出した。 火事場の馬鹿力である。 余程、思い入れがあったのか、高価な仏壇を家の庭に出した。 その際、力尽きて、もう敷地外に搬出できず、アウトドアに置きっ放しになった。
しかし、消防署の消火注水がその仏壇も濡損させ、高価な紫檀で出来た仏壇が濡損著しく、修理不能、全損との主張であった。
さて、この努力して搬出された仏壇が損害として保険で担保されるか?
結論から言うと、不担保である。
お支払いできません。
事実は小説より奇なり。
なんと、被保険者が弁護士を入れて交渉して来た。 もちろん、弁護士の先生が介入すると、仕事はすこぶるやり易い。
『損害保険の家財はその収容建物内の家財として、その保険料が決まる。 木造で有ればC級,D級で判断して保険料率が決まり算定している。 これが、屋外に搬出されると、屋外設備装置や野積みの動産で保険を付保しないといけない。 故に、屋外に搬出された段階で、その仏壇は無保険に変身し、 目的外として、保険の支払対象外として、当該仏壇は除外される。』 という内容を文書で提出した。
またまた事実は小説より奇なり。
弁護士は納得したが、被保険者が納得せず、直接、文句を言って来た。 『あなたが委嘱した法定代理人である弁護士の○○先生からの抗議に対して既に文書で説明済みで、○○先生はご了承頂きました。 それでもご不満があれば、○○先生を通して、議論させて下さい。』
「じゃあ、あれか、自分の危険を冒してまで仏壇を運び出したのは無駄だったのか!」 …はっきり言って、知らない。
「俺は運が悪かったのか!そして俺は客だ!仏壇の費用を払え!」 一般的に合理的に説明することが出来ないことは『運』とされる。
運が悪かったのかどうかでは無く、火災という大数の法則の中で起り得る事象であり、小生にとっては日常茶飯事のことであるから『運』では無い。 被保険者から、弁護士を通じて「鑑定人を代えて、別の鑑定人で再鑑定させろ」との打診があった。
保険会社も仕方が無く、別の鑑定人派遣となった。 弊社が苦労して作成して現場調査資料や平面図等を次の鑑定人に提出する様指示が来たが、個人情報漏洩となる為、丁重にお断りした。
またまた、事実は小説より奇なり。3回目
別の鑑定人が現場に赴くと、火災現場は更地になり、調査不能。 仏壇の現物は廃棄処分されており、同業他社の鑑定人が困り果て弊社に 連絡があり、「図面と写真と損害算定明細を下さい。」とのたまう。
『すいません。ご存知の様に、個人情報ですから、保険会社に既に提出したドラフトを保険会社からもらって下さい。弊社からは直に出せません。』 「ですよね。無理言ってすいませんでした。」
…後記、狭い長崎である。別件で知合いの仏壇屋を訪ねた時にあの時の仏壇がそこにあった。
店主に尋ねると、 「この仏壇は俺が150万円で客に売った紫檀のヤツで修理依頼が来た。 材料がいいから、水に濡れても30万円くらいで修理できるぞ。 やっぱ、いいものを売った責任があるから、きちんと修理して客に納品したい。」 …弊社で調査した仏壇とは言わず、世間話程度でその場を去った。
なんだ、やっぱり修理するんだ。 と思いながら、本件はその後どうなったかわからない。
既存の仏壇を発見したことは未だに報告していない。
だって、この仕事を降ろされたんだもん。…という本音である。
平成30年10月4日
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