ある取引先の出入禁止から9年
9年程前、類焼で現場立会依頼が来た。 もちろん、単独立会である。 現場には被保険者と解体業者のみ、契約店の方達もいない。 初めてお会いする人達である。 作業着着て、安全長靴を履いて、ヘルメットを被り膝パッドを装着して カメラを首から下げて、手に画板を持ち、図面を取り、全焼の現場を調査する。 弊社にとっては普通のことである。
熔損したケーブルの被覆の中の銅線が顔に当たり怪我をするが、 そこは自己責任である。 床組が焼損し、踏んだとたんに足が床下に突っ込む。 写真撮影と間取りの調査で両手が塞がっているとそんなことも普通に発生する。 現場で被保険者の飼い犬に噛まれてケガをする。 犬くらいなんだと思うかもしれないが、焼場で鎖から離れたリードの無いドーベルマン相手に戦う為には、武器が必要であり、もしもその辺の焼けた根太を使ってその犬を叩こうものなら、いかに小生の身を守る為とはいえ、被保険者からと保険会社からの苦情は回避不能である。
居合術をやっている為、棒切れがあれば、犬と戦えるし、緊急避難の法律で合法である。正当防衛でもある。 しかし、これも自己責任、ドーベルマンに襲われた時は怖かったが、幸い狂犬病にはならず事なきを得る。 ※狂犬病に感染すると、治療不能、すなわち死を意味する。
被保険者と面談してお見舞いの言葉を申し上げて、社会人としての マナーを遵守し、事情聴取をする。 涙を流す被保険者を支えて、罹災状況を調査する。 その前にドーベルマンを鎖につないどけよと思いながら、、、
洋室のコンセントの数をチェックする。建具のサイズを計る。 丸一日現場に居て、昼飯も食べずに調査する。 なぜなら、長崎県は消防と警察の現場検証が終了すると直ちに現場を解体する習慣がある。地域性であろう。
依頼のあった物件の焼損の状況と保険価額と損害額の算定をして 後日、ドラフト作成し、送付する。 これも普通の仕事である。
後日、依頼者から、火元である赤の他人の現場の出火原因を調査していないとクレームが来た。
地方新聞の記事や周辺事情の聴取内容を鑑定書に記載するが、調査不足という御仁のご主張である。
『個人情報保護法により、火元である他人の現場への立ち入りや付保状況を調査することは法律に触れるし、勝手に知らない人の土地に入ることは不可能ですよ。参考までに火元建物の写真撮影をして提出してますよね。 ご依頼があったのは類焼した目的建物であり、他の建物は調査不能ですよ。』 と答えたら、命令口調で、 「そこを何とかしなさい。法律に触れない形で、なんとか調査しなさい。原因となった他人の家になんとか許可を取って調べるくらいしないとあんた、何年、この仕事やってんのか!」
『それは弊社の仕事ではございませんよ。』 と答えたら、「はい、出入り禁止。」となった。
当時は頭に来て辛かったが、今は想い出になった。 その御仁はきっと友達が少ないのであろうと和やかに想像している。
鑑定書を書く時、真剣に取り組むがこちらの現場での大変さは伝わらず、アラを探して、鑑定人を潰して、その御仁は社内で出世するであろう。 世知辛い世の中である。
ちなみに保険の目的以外の物件の調査をしてもそこは鑑定料に反映しない。 そんなに言うなら、自分でやればいいと思う。
自分ができないことを人にやらせれば何とかなるという発想は 愚の骨頂と言わざるを得ない。
結論から言って、火元の赤の他人が自放火していない限り、目的建物の火災保険は支払いをしないといけない。
もし、自放火であっても、まず、類焼先の火災保険を支払う義務が発生し、賠償がらみであれば、後日、火元に求償しないといけない。
小生が現場調査して問題無いと判断しての行動であるから、とやかく言われる筋合いはない。
ちなみに、楽天家の小生は人生が残り少ないから、その依頼者の出入禁止の発言で動じず、他の依頼者の別件の仕事に粛々と業務に励む。
現場に来れば机上論では困難な事がわかるのにエアコンの効いた机の上で 電話だけの仕事の人には火災は伝わらない。 ところで、犬に襲われながらも調査してドラフトを作った小生には交通費はおろか鑑定料を支払ってもらえなかった。
写真と小生作成の平面図を郵送し、家1件分の積算見積りをファックスで送ってしまったが、その後、何の連絡も無く、出入禁止のままである。 あれから9年、保険金は支払われているはずである。
たまにはシリアスに。 平成30年10月17日
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